NPO法人スウィングのフリーペーパーの話

京都市北区にNPO法人スウィング(http://www.swing-npo.com/)というのがある。
スウィングも、主宰者の木ノ戸くんも、とても魅力的かつ刺激的で、日頃から尊敬したり感心したり学ばされたりしている。
尊敬する理由の一つは、スウィングが発行しているフリーペーパー『Swinging』の存在だ。
フリーペーパーにして発行部数9,000部!
ものすごい手間と時間と金をかけて、9,000部もの印刷物を全国に配布している。
自分たちの存在を世に知らしめるために、そういうことをずっと続けている(まもなくvol.27が出るみたい)。
そしてその内容は毎回面白い。
これはもう、尊敬したり感心したり学ばされたりするしかない。
スウィングの賛助会員になると毎号送ってもらえるので、皆さんもぜひ。
その『Swinging』に、3年ぐらい前に短い文章を載せていただいた。
このときのこのフリーペーパーのタイトルは「総力特集 永遠のリストラ候補 沼田亮平☆」であり、スウィングに所属する沼田くんという個人にスポットライトを当てたものだった。

というのが前置き。

しばらく前にスタッフの木村が会社のホームページを作ってくれた。
せっかくブログも設置してくれたのにぜんぜん書けておらず、ホムペ木村から「はよ、書け」とせっつかれている。
ということで、以前『Swinging』に寄せた文章を転載してごまかそうと思います。


以下、『Swinging 』Vol.21 より転載。

※転載にあたり句読点や改行の位置など、若干改訂しました。

 

 




なあ、沼田くん。

今号の『Swinging』は沼田くんの特集だって。
ちょうどよかった。聞いてほしい話があるんだよ。
特集されついでに、沼田くん、ちょっと聞いてくれよ。

昨日まで元気だった人が、今日、亡くなってしまう。
そういうことを、仕事の上で二度経験したよ。

たくさんの向精神薬の副作用で、筋肉の一部が固まり足を引きずって歩いていた人の「原因不明の突然の」死。

大柄な父親から、体が吹っ飛ぶほどの殴打を日常的に受けていた人の「急な」病死。

原因不明?
突然?
多剤多量処方が、暴力が、その死に関係していないわけがないと思うのだけれど。
お茶を濁されながら生きていた人たちは、その最期だってうやむやにされてしまったよ。

急に家を飛び出したり大声をあげたり食事のたびに嘔吐したりして、家族からも福祉関係者からも「無理」と言われて、精神科に入院させられた人がいたよ。
退院の予定のない入院は、もうすぐ五年目を迎える。
二十代で、人生を丸ごと封印された人。

拘置所での生活と有罪判決を経て、地元から遠く離れた町の施設で暮らしている人がいるよ。
裁判中に支援者から提示された出所後の道は、施設入所かホームレスの二択。
選択の余地はないから、実質的には強制的に入所させられたわけだけれど、それでもこの人は「自分で」遠くの施設に入ることを「選んだ」と思っている。
「そう思わされている」ということに、気づいていない。

なあ、沼田くん。

あの人の死を、あの人の入院を、あの人の事件を、防げなかったのは、誰だと思う?
あの人から目をそらし、あの人を捨て、あの人にふたをしたのは。
いつも安全な場所で手をこまねき、論点をはぐらかし、自分の生活を優先させているのは。
全力を尽くしていることに偽りはなくとも、そもそも力を注ぐポイントがずれている、手をつけやすいところだけを撫でているのは。
その「関係」の当事者だというのに、部外者ヅラをしているのは。
だーれだ?

「それはお前だろ」ってか。

ああそうだよ。
沼田くん、それは俺だよ。

そんな俺に、福祉ファンタジーのテーマソングを歌うのは、やめてくれよ。
利用者の思いを尊重しようって、もう言うなよ。
一緒に暮らしている家族の気持ちでさえよく分かっていない、この俺に。
利用者本位の支援を提供しようって、もう言うなよ。
そんなに豊かな想像力は持ち合わせてはいないよ。
利用者の潜在能力を引き出そうって、もう言うなよ。
そんなことができるって、どれだけうぬぼれたら思えるのだろう。
利用者の強みを活かそうって、もう言うなよ。
お前は強みを活かしていないなんて、そんなことを言われたら、マジうざいよ。
関係機関と連携しようって、もう言うなよ。
いつもいつも連れションばかり勧めるなよ。
天気のいい日は一人で立ちションしたいだろ。
すべては計画書に沿ってって、もう言うなよ。
その紙っぺらに書かれているのは、茶番劇のシナリオじゃないかよ。

なあ、沼田くん。

うぬぼれと勘違いと嘘と自己欺瞞のアンサンブルを、超ファックな福祉ファンタジーのテーマソングを聞いているうちに、「エンパワメント~♬か~ら~の~ストレングスモデル~♬」なんつって、いつの間にか口ずさんでしまっている、ゲスの極みの乙女座のおっさんは、だーれだ?

「それはお前だろ」ってか。

ああそうだよ。
沼田くん、それは俺だよ。

なあ、沼田くん。

支援員とかヘルパーとかいう立場の我々に、できることがあるとすれば、それは何なのだろう。
我々がなすべきことは、何なのだろう。
我々はどこに向かえばよいのだろう。

いや、違うよ。答えがほしいとは思っていない。
知っているよ。こういう問いに解はない。
でもすでに、我々は何かができていて、何かを期待されていて、どこかに向かって歩き出してしまっている。
正しいのかどうか分からないままに、よく分からないままにそうなっているということの気持ち悪さ、しっくりこない感じを、沼田くんと確認し合いたいんだよ。

なあ、沼田くん。

どのぐらい気持ち悪い?
ナマズを枕にして寝るぐらい気持ち悪い?

何をしてもしなくても、歩こうが立ちどまろうが、いつもしっくりこないだろ?

なあ、沼田くん。

どのぐらいしっくりきていない?
ナマズをどうしたときぐらい、しっくりきていない?





駒田健一